物販の実務
「いくらまで値下げしていいか」を仕入値+送料で考えると赤字になります
2026-09-15
「500円だけ値引きしてもらえませんか」
物販をやっていれば必ず来る質問です。このとき、いくらまでなら受けていいのか。
多くの人は 仕入値 + 送料 + 梱包費 を足した額を下限だと考えます。これは間違いです。売価を下げると、販売手数料も一緒に下がるからです。手数料は固定額ではなく売価に比例するので、原価を足しただけでは計算が閉じません。
まず、間違ったほうを数字で見る
- 仕入単価 1,000円
- 送料 210円(ネコポス)
- 梱包費 30円
- 販路 メルカリ(販売手数料 10%)
原価の合計は 1,240円。「1,240円までなら下げられる」と考えたとします。
実際に 1,240円 で売ると、
| 円 | |
|---|---|
| 売価 | 1,240 |
| 販売手数料 10% | −124 |
| 手取り | 1,116 |
| 原価 | −1,240 |
| 損益 | −124 |
124円の赤字です。手数料の分がまるごと抜けています。
正しい計算式
売価を P、原価の合計を C、販売手数料率を r とすると、損益がゼロになるのは
P − P × r = C
P × (1 − r) = C
P = C ÷ (1 − r)
つまり 原価を(1 − 手数料率)で割る のが正解です。足すのではなく、割る。
先の例なら
1,240 ÷ (1 − 0.10) = 1,377.7… → 1,378円
1,378円が下限です。検算すると、手数料 138円、手取り 1,240円、原価 1,240円で損益ゼロ。合っています。
「1,240円まで下げられる」と思っていた人は、実際には138円ぶん下げすぎていたことになります。1件あたり138円は、月に30件さばけば4,140円です。
率に現れない手数料がある販路
ここでもう一段ややこしくなります。売価に比例しない手数料を取る販路があります。
BASEのスタンダードプランは、決済手数料 3.6% + 40円 に、サービス利用料 3% が加わります。この「+40円」は売価がいくらでも40円です。率だけで計算すると合いません。
固定手数料を f とすると、式はこうなります。
P = (C + f) ÷ (1 − r)
同じ商品をBASEで売る場合(率 6.6%、固定 40円)、
(1,240 + 40) ÷ (1 − 0.066) = 1,280 ÷ 0.934 = 1,370.4… → 1,371円
メルカリの1,378円より低い。 固定40円を取られてもなお、率が10%→6.6%と低いぶんが勝ちます。「固定費があるから不利」とは限らない、ということです。
逆に、安い商品ほど固定40円の重みが増します。売価500円なら40円は8%相当です。単価によって有利な販路が入れ替わるので、感覚で決められません。
目標利益率から売価を逆算する
下限だけ分かっても、実務では足りません。「20%は残したい」という線のほうをふだん使います。
目標利益率を m とすると、
P = (C + f) ÷ (1 − r − m)
メルカリで利益率20%を確保するなら、
1,240 ÷ (1 − 0.10 − 0.20) = 1,240 ÷ 0.7 = 1,771.4… → 1,772円
検算:売価1,772円 − 手数料177円 − 原価1,240円 = 利益355円。355 ÷ 1,772 = 20.0%。合っています。
この2本(下限 と 目標ライン)が出ていれば、値引き交渉はその場で判断できます。「1,772円が希望ですが、1,500円までなら出せます」と、根拠を持って言えるようになります。
つまずきやすいところ
1. 手数料率は変わるし、一律でもない
2026年4月1日にAmazonの販売手数料率が改定され、1点750円を超える商品で+0.4%になりました。2024年6月4日には、ヤフオクの落札システム利用料が会員種別を問わず一律10%になっています。ラクマは前月実績により 10 / 9 / 8 / 7 / 6 / 4.5% の6段階、Amazonはカテゴリ別に概ね5〜15.4%です。
自分の適用率を確認せずに「メルカリだから10%」と決め打ちすると、そもそも計算が合いません。7販路の手数料比較に一覧をまとめてあります。
2. 送料は「安いほう」ではなく「実際に使うほう」で入れる
ネコポスで送るつもりが厚さオーバーで宅急便コンパクトになった、というのは頻繁に起きます。宅急便コンパクトは専用BOX代が別にかかるので、表示運賃だけで計算すると足りません。送料が310円増えると下限は345円上がります(厚さ3cmの壁)。
3. 端数は切り上げる
下限は切り上げ、目標ラインも切り上げ。切り捨てると1円足りずに赤字側に落ちます。
その場で計算する
上の式を毎回電卓で叩くのは現実的ではないので、7販路を同時に比較できる計算機を無料で置いています。手数料率はその場で書き換えられるので、自分の適用率で試してください。
(このページの下にリンクがあります)
出品中の全商品について、同じ線を持っておく
1件だけなら電卓で足ります。問題は、出品中の在庫が50件、100件とあるときです。
- どれが、いくらまで下げられるのか
- どれが、すでに下げ余地がないのか
- 何日止まっている在庫に、いくら現金が縛られているのか
3つ目については売れない在庫を持ち続けるコストで別に書いています。
これを1件ずつ手で出すのは無理があります。出品日・販路・仕入単価・送料を入れるだけで、損益分岐点売価・目標ラインの売価・滞留日数からの値下げ判定を全件自動で出すシートを用意しています。手数料率と固定手数料は設定シートで編集できるので、改定が来ても数字を1か所直すだけで済みます。